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[story]懐刀、出動 [story]

更新するほどまとまってない文面ですが、そのうち掲載されるかも(笑

カツカツカツカツカツカツ……。

静まり返ったコンピュータ同好会の部室に、足音だけが響いている。
せわしなく室内を動いては、時計を見るが、針は30秒ほどしか動いていない。

窓から入る光を浴びながら、机の上に両手をつき、がっくりと肩を落とす。

――今日が勝負だ。

そんなことは分かっている。
分かっている。

だが、いつもと違うその戦い方に少しだけ緊張しているのかもしれない。
自分ひとりで戦う、その戦い方に。

特務規約第3項。
正確にはまだ発令されていないはずだ。

だが、愛美は部室にいた。

昼休み中に、授業後の戦いの準備をしていたが、間に合わず、授業に遅れてしまいそうだった。
5時間目は、国語。それも、古文。

――間違いなく、後で呼ばれるだろうな。

わかってはいたものの、教室に行く気にはなれず、ここに来た。
6限に入る前には、特務規約が発効される。

克巳会長と決めたことだ。
後付の特務規約第3項にしよう、と。

だから、結果的にはこの時間も第3項の対象時間となる、はずだ。
私としては、サボりでも良かったのだが。

結局、部室に来たところで、やることがあるわけではない。
後は時が過ぎ、時機を待つだけしかないのだ。

分かっている。
そんなことは、分かっている。

そのために、自分の後輩が半ば囮になっていることが、一番苦しいのだ。

だが、これしか手段がない。

いや。
それは、弁解ではないのか……。
できることなら、今すぐに飛んで行って「なくなった」と言いたい、本心からそう思ってる。

「ふぅぅぅぅ」

ここに来て何度目のため息をついたのだろう?
もう、思い出すのも頭が痛くなってきた。

チャイムが鳴った。
6限の開始だ。

「やっと、1時間が過ぎた……あと50分」

愛美は、ゆっくり立ち上がると細く長く息を吐いた。

腹式呼吸。
小さい頃から、愛美は気分を落ち着かせるときには必ず続けていた。

ゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す。

ただ、これを繰り返すだけだが、頭も心もクリアになってくる。

ゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す。
ゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す。

時計の音と、呼吸の音が部室に響き渡っていた。

ゆっくり吸って……。

ガラガラガラガラ……!

「やっぱり、ここだったね。」
「ひ、東せんせっ!? すみません。」
「……僕の授業をサボるなんて、江島さんらしくないからね。」
「後で、呼ばれると思ってたんですけどね。」
「で。今回は、どんな事件なんだい?」
「すみません……。それは、また、明らかになったときに……。」

残念そうに肩をすくめると東は続けた。

「そう言って、なかなか生徒会メンバーは教えてくれないからね。」
「いえ。この件は。必ず。」

愛美はまっすぐに東の目を見て告げた。

「東先生が生徒会の副顧問だといっても、今はお話できないのです。私、単独行動ですから。」
「単独行動……!? そうか、そうすると、懐刀のお仕事ってわけだね。」
「それ以上は。ご想像にお任せします。」
「……了解。あまり、無茶しないようにね。」
「私から無茶と無謀を取ると、後に何も残らないですから。」
「ははは。そうかもしれないね。聞かせてもらえない代わりに、ちょっと聞いてもいいかな。」

愛美の目に疑問の色が宿った。

「あ、いや。事件のことじゃなくてさ。江島さん、タロットってわかる?」
「タロットですか?」

東はポケットから、折りたたまれた用紙を取り出した。

「いや、実はね。学園祭の時に、コンピュータ同好会で評判になってた占いをやってみたんだよ。」
「ありがとうございます……って、言ってくだされば、いつでも対応しますよ。あんなに並ばなくても……。」
「あぁ、30分も並んじゃったよ。」
「すみません……。」
「ただ少し不親切なプログラムだったみたいで、カードの説明がないんだよ。」
「あぁ、カードだけ印刷して、それをフォーチュン・テリング同好会に持っていくと、リーディングしてくれる、っていうやつですね。」
「何がなんだか全然わかんないんだ……。」
「そりゃ、そうでしょうね……。で、私にカードを読め、と?」
「何とかなるかな、と思ったんだけど、無理かな?」
「まぁ、女の子は大体占いに興味を持つ時期がありますからね。深くは読めませんが、もし、お役に立つなら。」
「いや~、助かるよ。」

東が紙を開くとそこには、3枚のカードが描かれていた。

「これは、総合運ですね。」
「そうらしいね。」
「で、1枚目が<悪魔>の正位置。」
「2枚目が、<月>の正位置、3枚目が……。」
「<魔術師>、ですか。正位置で。」
「どうかしたのかい?」
「いえ、どうしても“裏生徒会”の事件を思い出してしまって……。」
「そういえば、その話も聞かせてくれる……」
「さぁ、リーディングしましょう♪」

というと愛美は、軽く目を閉じた。

「スリーカードの1枚目は、過去の状態。東先生は、昔は何かに束縛されてました? 好きな人に縛られたか、それとも何かの障害があって自分がやりたいことができなかった、とか。重苦しい空気が漂ってました。」
「……そんなこともあったかもしれないね。」
「まぁ、基本誰にでもそう言うことはあると思うんで。で、2枚目は現在。今、先生は何かに迷っていらっしゃる。もしくは、自分が今されていることの先が見えない……何か、教師として困っていらっしゃるのであれば、蒼明学園として捨ててはおけません。ぜひ、生徒会役員である私にご相談を!」
「……江島さん、気持ちは嬉しいけれど、相談する先が違うんじゃないかな?」
「そうですか……残念です。私でお力になれるなら、言ってくださいね。えっと、では、3枚目、未来が<魔術師>、ですか。」
「正位置だし、悪くないと思うんだけど。」
「えぇ、自信を持って物事に取り組んで、新しいスタートが切れるようです。」
「じゃ、今は見えないけれど、いい方向へ向かう、ってことだね。」
「そうですね。ご自身の想定どおりではないかもしれませんが、結果としてはいい方向へ向かいそうです。良かったじゃないですか! それこそ、私たちに聞かせてくださいね。」

もう1枚、ポケットから用紙を出すと、少し恥しそうに目前に出した。

「こっちもお願いできるかな?」
「せんせっ、恋愛運ですかぁ~!? ちょっと、そういう人がいるんですか!? 聞かせてくださいよぉぉぉ~」
「こ、こらこら、それはトップシークレット。」
「残念。じゃ、せめて、占いの結果だけでも。」

ツーカード。
誰かの思いを読み取るには、ベストな方法だ。

正直に言うと、今回の学園祭にはホロスコープ法などの本格的なプログラムは間に合わないだろうと考えて、カードの枚数が少ないものを種類を多くして取り揃えていったのだ。

「ってか、これ、すごいいい状態じゃないですか!? せんせ、片思いですか!?」
「……一応、そう、かな。」
「へぇーーっ。チャンスですよ、チャンス、大チャンス!」

愛美がはしゃぐのも無理はない。

「1枚目が<恋人たち>で、2枚目が<節制>ですよ!? もう、相手もせんせに好意を寄せてるってことですって。」
「そ、そうなのかな?」
「そうなの。」

ぴしゃっと、押さえつけるように言うと愛美は、ゆっくりと目を閉じ、解説を始めた。

「1枚目は、相手の表面的な意識。センセといると楽しくて、少しときめいてるようですね。あまり先のことは考えてないけれど、今を楽しんでますね。きっと、この人となら先もあるかな、って思ってるんだと思います。次に、2枚目。相手の潜在意識でセンセをどう思ってるか、ですね。一緒にいると穏やかになれる、と思ってるみたいです。素直になれるってのかな。気心知れて安心できるというか。安らいでるみたいですね。」

そこまでを一気に語ると、愛美は目を開いて、だから、今、押しちゃわないと!と笑った。

「じゃ、今がチャンスだね。」
「そうですよっ! 大チャンスです。まずは、想いを伝えてみてください。」
「……ありがとう。」
「久しぶりに、大アルカナ全部出してみようかな……私、いつも2枚だけ持ってるんですよ。お守りで。」
「お守り?」
「えぇ。ほら。」

ブレザーの内ポケットから取り出したのは、タロットカード。
手のひらサイズの少し大きめの使い込まれたカードだ。

「年季が入ってるね。」
「もう10年以上持ってますから。お守りにしているのはここ最近なんですけどね。」
「……<女帝>と、<魔術師>。」
「あ、今、“裏生徒会”の事件と結びつけましたね!? 確かに、どちらも私が扱ったアイテムですが、残念ながら彼らとは違いますよ。」
「なんだ、じゃぁ、これがアイテムに変わったりとかはしないんだね。」
「しませんっ!」
「じゃ、その2枚に意味があるんだね?」
「はい。<女帝>は、幸せ。これは、私が蒼明学園で生徒会役員となった時に、幸せのために能力を使おう、と誓ったからです。」
「能力?」
「あ? え、えぇ、この人を震えさせるような圧迫感。」
「……の、能力かもしれないね……。」
「ふふふ。で、2枚目は、自信です。いつでも新しいスタートを切れる自信。」

微笑みながら、東は言った。

「にしては、江島さん、この2枚カード、違うように思えるんだけど。」
「バレましたか。この2枚目は私のお守りです。本当に。報告書でも記載しましたが、“聖戦士”の剣から私を守ってくれたカードです。」

そう言うと、一瞬目を伏せた。

「でも。面白いですよね。使い込まれた風合いが違うけれど、カードは同じなんです。」
「本当だ。」
「並べても違和感がないでしょ? 一番使われているライダー版でもないのに。」
「……。」
「私は小さい頃からずっとこのカードを使っているんですが、どうやって手に入れたのか、まったく覚えがないんです。気づいたら持っていたんで。」
「……お母さんが買ってくれたとか?」
「母ではなく、買ってくれたのなら、パパだと思います。あ、すみません。いろいろ家庭の事情がありまして、こう呼ぶことを許してくださいね。」
「そこは、深く聞かないことにするよ。」
「ありがとうございます。」

しばらく、沈黙が流れた。
貝のように重くなった口を開いたのは、愛美。

「私は、魔術師ときっとどこかで会ってるんだと思います。ずいぶん昔に。そして、その時にいろんなことを聴いて知ってるんだと思います。リーディングの仕方も。」
「江島さん?」
「だから、私は、行かなきゃいけないんです。」
「どこへだい?」
「“魔術師”に会いに。私の言葉を伝えなくちゃいけないんです。伝えられる自信はまったくないけれど。」
「江島さんが言えないなんて、珍しいなぁ~。でも、もしそれが本当なんだったら……カードに託してみたら、どうだい?」
「カード……。」
「もし、託すとして。江島さんが選ぶカードはどれなんだい?」

愛美は、カードを頭の中に浮かべると、問いかけた。

「これかな……。」
「みつかったかい?」
「えぇ……<法王>ですね。」
「どういう意味なんだい?」
「ふふふ。トップシークレットです。興味があったら、ご自宅でどうぞ調べてくださいませ。」

6限終了のチャイムが響いた。

「あ、センセ。すみません。私、そろそろ行かないといけないんで。」
「江島さん、忘れ物だよ。」

机の上に置いたカードを2枚、手渡す東。

「あ、すみません。」
「……忘れちゃいけない。どんな時だって、一人で戦っているわけじゃないんだから。
 たとえ、今は自分だけしかいないかもしれないけれど、あなたの後ろには他の役員も、
 もちろん執行部のメンバーも、力不足だけど、僕もいるんだからね。」

愛美は軽く微笑んだ。

「力不足だなんてそんなことないですよ。センセ、6限始まった時に出された、特務規約
 第3項をみて、慌てて飛んできてくれたんでしょ? 依頼者が克巳会長で、対象が私一人。
 それは、私が懐刀の仕事をする時の生徒会内の暗黙の了解ですから。すみません。
 お気遣い、ありがとうございます。」
「その洞察力と推理力、さすがは、生徒会長の懐刀だね。」
「いえいえ、それほどでも」

ちょっと胸をはる愛美を笑顔で見る東。

「しかし、その懐刀が動く時、それは、江島さんに、蒼明学園の未来がかかってるってことだからね。」
「もー、そういうのがプレッシャーっていうんですよ。」
「あはははは。大丈夫だよ。江島さんなら、きっと。」
「もちろんですよ。私は、そのためにいるんですから。絶対にうまく収めて見せます」

絶対に、ともう一度小さくつぶやく。

「じゃ、行きます。あ、ここはもうすぐ部員が来るんであけたままでいいですよ。じゃ、すみませんが
準備があるんで行きます! ありがとうございました!」

ガラガラガラガラ、ガッシャン。

「<法王(ハイエロファント)>。援け、か……。」

つぶやく声が聞こえなくなったかと思うと、いつしか、彼の姿も部室から消えていた。

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